日本ではもはや生活に不可欠な存在となったコンビニエンスストア。商品購入のほか、金融機能やチケットの手配、宅配便の集積など、あらゆるサービスの拠点として重要性が増している。
独自の進化を遂げたと言ってもいい日本のコンビニ。海外でもさぞ需要が高いだろうと思いがちだが、普及ペースは緩やかなのが実態だ。
「最近、ようやく市内でも外資系のコンビニが増えてきた。でも数はまだまだ少ないですね」。ベトナムの首都ハノイ。現地日系企業に勤める駐在員が教えてくれた。
総人口が1億人に迫り、1人当たり国内総生産(GDP)が2000ドル(約21万8000円)を超えたベトナムは、コンビニ各社が注目する成長市場だ。現地紙によると、ベトナムでは地場資本の「ビンマート+」が約840店舗と業界をリードしているが、「サークルK」が約240店舗、「ミニストップ」も約80店舗を展開するなど外資系も出店を加速している。今年6月には日系最大手のセブン─イレブンが南部の大都市ホーチミンに1号店を出店、ベトナム進出を本格化した。
しかし、日本のようにコンビニが爆発的に普及するには、まだしばらく時間がかかるとの見方が大勢だ。
買い物の中心は個人商店や市場……ベトナム
「ジュースや菓子を売っている店は街中にいっぱいある。通勤途中にあったら寄るかもしれないけど、わざわざコンビニに行く必要はないと思う」。市内に住むブー・アンさん(27)はこう言う。
ベトナムでは韓国ロッテなど大型スーパーも進出してはいるが、いまだ買い出し先の中心は個人商店や市場だ。ハノイ市内のあちらこちらに雑貨や食料品を扱う個人商店が並んでいる。雨が降り出せば、通り沿いの商店に加え、町工場までが軒先で雨合羽の販売を始める。こうした商魂たくましい個人経営者がコンビニに立ちはだかる壁となっている。
シンガポール資本でベトナムに約120店舗を展開するコンビニチェーン「ショップ・アンド・ゴー」をのぞいてみた。50平方メートル程度の狭い店内に菓子や飲み物、アイスクリームなどが並び、歯磨き粉、シャンプーといった日用品もそろう。品数だけ見れば個人商店より充実しているが、地元の消費者いわく「コンビニの商品はどれも割高」。長年染みついたベトナム人の買い物習慣を変革し、深夜営業などコンビニの利点を浸透させるのは容易なことではない。
消費の主役はネット通販……中国
ベトナムだけではない。個人消費の規模では日本を圧倒する中国でも、コンビニは日本ほど普及していないのが現実だ。
中国で立ちはだかるのは、買い物習慣の急激な変化だ。
20年ほど前まで、中国でもベトナム同様、地場の個人商店が買い物の中心だった。しかし、ここ数年で都市部を中心に宅配システムの整備が進み、コンビニ文化の普及を待たずに、消費の主役はスマートフォンを使ったネット通販に移行しつつある。
食べ物や日用品などあらゆる商品が自宅や勤務先で受け取れるため、実際に店に足を運んで買い物をする必要性は薄れている。中国各地で吹き荒れる不動産バブルでテナント料が高騰していることもあり、「コンビニをはじめ百貨店、商業ビルなど実店舗の経営不振が深刻化している」(流通関係者)という。
一方、日本。コンビニ文化は隆盛を極めてはいるが、これ以上のパイ拡大は見込めず、コンビニ各社は新たな収益源を海外に求めざるを得ない状況だ。
しかし、国によって買い物習慣も、所得レベルも、出店に伴う各種規制も違う中、日本で培ったノウハウをそのまま海外に持ち込むだけでは消費者の心をつかむことはできないのは明白だ。
自動車、電機など製造業に続き、グローバル化の波に挑み始めたコンビニ業界。海外でもマーケットをリードする存在となれるか、対応力が問われている。


