ベトナム政府やベトナム国家銀行(中央銀行)が、国内の不動産市場の過熱を警戒しているもようだ。不動産市場に資金が流入し、実需とかけ離れた価格になることで、国民が住宅を入手しにくくなることを懸念している。特に高級物件は外国人投資家の存在感が高まっており、国会でも監視を続けるべきとの意見が出された。
今年1〜5月の貸出残高の伸び率は、前年同期比6.53%と、過去2年を上回る伸び率となった。資金需要が高まっている一方、政府や中銀は不動産に資金が過剰に流入し、市場が過熱することを警戒する。国会の経済委員会は先月、2016年に国内で3,126件の新規の不動産案件が手掛けられたと発表。これは前年比83.9%の増加としている。現状を踏まえ、委員会では「特に高級物件への投資に対する資金の流れには、引き続き監督強化が必要」との見解を示した。
米系不動産サービス会社CBREベトナムによると、ホーチミン市で今年第1四半期(1〜3月)に販売された集合住宅の部屋数は6,500戸。前期比では44%、前年同期比では49%減少している。販売数が減っているのは、新規物件の供給数が減少していることが要因。第1四半期に販売された物件のうち、67%は中級物件という。
一方、販売価格は1平方メートル当たりの平均が1,595米ドル(約17万5,000円)。前期比で6%、前年同期比では13%上昇している。高級物件の価格は前期比で7.9%上昇。2区で大規模な開発が続いていることで、価格は上昇傾向にある。
■来年は不動産ローンの引き締めも
三井住友銀行アジア・大洋州トレジャリー部(シンガポール)のエコノミスト、鈴木浩史氏は「ベトナムは過去に大きな不動産ブームとバブル崩壊を経験しており、国内外の投資家は現在も慎重な姿勢を崩していない」と指摘する。高級物件に対する監視について政府は、外国人投資家の役割を監視するとともに、銀行を規制する方策を打ち出している。
世界の主要都市と同じく、ベトナムでも高級物件の買い手に占める外国人投資家の割合が増えつつある。国民が住宅を購入できなくなる事態を避けるため、ベトナムに限らず外国人投資家には高い印紙税を課すといった規制が課されることは多い。また、金融機関に対しては、頭金の基準やローンの限度額などについて、監視を強めるなどの政策が採用される。
不動産投資を手掛けるクリード・グループ(東京都新宿区)の山口真一氏(ホーチミン駐在員事務所所長)は「この3年間で法人向けの開発ローンは受けやすくなっていると感じる」と印象を語る。銀行にとっては、不動産ローンは担保が取りやすく市場が好調な際には貸し出しをしやすい。金利は多少下がっている程度で「大きく下がっているわけではない」(山口氏)。一方で、来年以降、ベトナム政府が不動産関連のローンを引き締める方針があるとされ、影響が出る可能性もある。
ベトナムの不動産市場については、将来的に地価が上がるという期待値が高く、売り手優位。実際の地価も上昇傾向にある。つまり、「法人や個人が、住宅やオフィス、商業施設に対して、将来的な需要が高いと判断している局面であり、不動産の購入に興味を持つ人が増えている」(山口氏)のが現状だ。
クリードが主に手掛ける中級の住宅市場については「実需に基づいて10%以上価格が上がっている案件もある」とし、「人口や国の潜在力を考えると、住宅はまだまだ不足している」と分析する。価格や需要は上がりすぎとは言えないが、健全な成長という水準は超えつつあるとの印象もある。ただ、今後も多少の波はあったとしても、成長は続いていく見通しだ。
関連国・地域: ベトナム
関連業種: 経済一般・統計/建設・不動産


