2017年07月13日

ベトナム 【イスラエル革新】商機は常に国外、技術で開拓 越を有望視し来年にFTA締結も

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【イスラエル革新】商機は常に国外、技術で開拓 越を有望視し来年にFTA締結も

グーグルやアップルといった世界の大手企業が研究開発(R&D)拠点を構えるなど、最新技術を生み出す「起業大国」として世界が注目するイスラエル。ベトナムでもイスラエルの技術や発想を学び取り入れる動きが広がっている。イスラエルの革新力がベトナムで芽吹く現場を追う本特集。初回は在ベトナム・イスラエル大使館のドロン・レボビッチ首席公使に、ベトナム市場の動向と起業大国と呼ばれる理由を聞いた。

「イスラエルの企業の特徴としては、テクノロジーが優れていることが全てと言える」。レボビッチ首席公使はこう強調する。ベトナムに進出するイスラルの企業は現在、数十社あり、「イスラエル企業はアジア市場、とりわけベトナムに注目している。企業の数と進出する分野の多様性は年々拡大している」と話す。農業や教育、サイバー、医療用品・機器、消費財などの分野がその一端だ。

レボビッチ首席公使は「最先端の技術を持つイスラエルと、農業大国からハイテク国家へと移行しているベトナム市場との相性はとても良い」という。3月にはイスラエルのルーベン・リブリン大統領がベトナムを訪問。企業訪問団も訪れ、100以上の企業間、企業対政府、政府間での会合が持たれたという。さらに両国はR&Dで協力することで一致。イスラエル経済省の「オフィス・オブ・チーフ・サイエンティスト(OCS)」と、ベトナムの国家技術革新ファンド(NATIF)が覚書を締結した。NATIFは、ベトナムの国策ファンドで1兆ドン(4,350万米ドル、約50億円)規模の資金を持っている。

■貿易額大幅に伸び、FTAに弾み

また2国間の貿易も直近の5〜6年で10倍規模に増加している(グラフ参照)。レボビッチ首席公使は「向こう2〜3年で30億米ドルに引き上げたい。現在は両国経済の潜在性のごく一部を示しているに過ぎない」と話す。

イスラエルとベトナムは2016年3月、自由貿易協定(FTA)の交渉を開始した。レボビッチ首席公使は「イスラエルは人口が850万人と国内市場は小さいが、先端技術はある。一方のベトナムは人口が多い上、経済の転換期にある。FTAは両国に恩恵をもたらすため、早期に調印したい。18年の交渉妥結を目指している」と述べた。

イスラエルの機械や電子機器類は、ベトナムの農業や酪農などの現場で多く用いられている。ベトナムに製造拠点を持たないイスラエルにとって、FTAの活用は大きなメリットになる。

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■ハイテク農業に競争力

イスラエルが持つ最先端技術がベトナムに導入された例の一つに、イスラエル外務省の国際開発協力機構(MASHAV)とホーチミン市が、共同で実施しているハイテク酪農プロジェクトがある。モノのインターネット(IoT)を用いたイスラエル式の酪農を試験農場で既に5年ほど実施し、成果を上げている(第2回で詳報)。

レボビッチ首席公使は、「ハイテク農業はベトナムだけでなく世界的に注目されていることに疑いはない。イスラエルはこの分野で高い競争力を持つ」と述べた。ベトナムでは酪農や農業分野を中心に、イスラエル式を導入する企業が相次ぎ、生産性とブランド価値を高めている。

またMASHAVとイスラエル大使館が注力していることに人材育成がある。「ベトナムでは教育は一つのキーワードで、多くの投資がなされている」と話す。イスラエルで農業を学ぶ短期間のインターンシップに750人のベトナム人学生を受け入れてきた。またイノベーション、農業、女性の社会的地位向上(エンパワーメント)などの分野で、教育者となる人材にノウハウを伝授する2〜3週間程度のプログラムも実施している。

■起業時から海外を視野

レボビッチ首席公使によると、イスラエルにはグーグルやアップル、インテルなど大手企業350社が、R&D拠点を設けている。そして自国のスタートアップ企業が6,000社を超える。これは米シリコンバレーに次ぐ世界2位の規模だという。大手企業は自社で拠点を設けるだけでなく、スタートアップを買収して拠点化するパターンも多い。世界経済フォーラム(WEF)の「世界競争力ランキング」では、イノベーション分野で2位につけ、起業環境が高く評価されている。

これが起業大国と呼ばれる理由だが、根底には世界トップ水準の教育システムと起業を支援する環境(エコシステム)がある。レボビッチ首席公使は、「イスラエルのイノベーションの源は『必要性』だ」と語る。「イスラエルが建国された場所は、石油やガス、鉱物資源はない。あるのはヒューマンリソース(人的資源)だけだった」(レボビッチ首席公使)といい、優れた教育機関を設けたことがその第一歩になったという。英タイムズ紙の情報誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」など複数の大学ランキングで、世界トップ1,000校に6校程度が入っている。

ビジネスの考え方や姿勢にも特徴がある。レボビッチ首席公使は、「イスラエルの国内市場は小さく、起業した時点で世界的な視野を持ち、より大きな企業や国にソリューションを提供しようと考えている」と解説する。また「疑問に思うことを人に聞く。現在の生活を改善することを考え、できることをやる。『当たり前』からは何も生まれない。これは起業のアイデアを生むに当たって重要な姿勢になる」という。

一方、「スタートアップはリスクを伴うビジネス。実際に多くの起業家は2度目の起業をしている。これは諦めない姿勢を持つイスラエル人の特徴」と話す。大学、民間、政府が連携したエコシステムもある。政府は補助金やファンド、融資を提供し、リスク低減している。こうした考え方や環境が技術革新を生み出す素地をつくっている。

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<メモ>

イスラエルは人口855万人。国内総生産(GDP)は3,187億4,400万米ドル、1人当たりGDPは3万6,190米ドル。GDP成長率は4.0%。データはいずれも16年。(出所:世界銀行、国際通貨基金)

posted by HA-NAM at 02:25| ★経済・株価・金利★ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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