2017年07月14日

ベトナム 【イスラエル革新】熱帯の酪農をIoTで克服へ 生産量が大幅増、ホーチミン市と試験

rakunou.gif

【イスラエル革新】熱帯の酪農をIoTで克服へ 生産量が大幅増、HCM市と試験

イスラエル外務省傘下の国際開発協力機構(MASHAV)とホーチミン市農業・地方開発局が、ホーチミン市郊外で共同運営しているハイテク酪農のデモファームが成果を上げている。熱帯気候の同市は酪農に適さないと言われてきたが、モノのインターネット(IoT)を使った牛の管理など、酪農場全体にイスラエル技術を施し、生乳の生産量を引き上げるとともに技術移転を図っている。

ホーチミン市郊外のビンチャイン郡に建てられた酪農場。気温が30度を超える厳しい日差しが照りつける中、牛舎にいる約100頭の牛は食欲旺盛で、混合飼料(TMR)を食べている。牛舎の中には大型の扇風機が回り、乳牛の脚には体調管理に用いるセンサーが付けられている。

「ホーチミン市をはじめベトナム南部は、気温と湿度が高く、北部や中部高原に比べて酪農に適していない。だが厳しい環境でも生乳の生産量が上がることが実証できた」。イスラエルから経過観察に訪れた農業国際開発協力局(CINADCO)のディレクター、ダニエル・ウェルナー氏は評価する。

イスラエルの乳牛は1日平均40リットルの生乳を生産。同国の酪農技術は世界トップクラスだ。対してこの農場で育てているベトナム生まれのホルスタイン種の乳牛は、プロジェクト開始当初、1日平均6〜7リットルしか生産できなかった。乳牛が暑さに弱いだけでなく「遺伝子レベルも良い状態ではなかった」(ウェルナー氏)。だが、イスラエル式のハイテク酪農を導入した結果、5年ほどの間に最大25リットル程度にまで大幅に増え、熱帯での酪農という難題を克服しようとしている。

■データをフル活用

ハイテク農場では、餌や厩舎(きゅうしゃ)の気温管理、データに基づく体調管理などをイスラエル式で運営している。餌は年齢に応じた配合飼料を調整し、厩舎ではミストが出るスプリンクラー付き扇風機を使用することで、暑さが引き起こす「ヒートストレス」による食欲減退や受胎率の低下を防いでいる。また乳牛の脚に付けられたセンサーで、歩数や横になる回数、時間などが把握できる。2時間ごとにWi―Fi(ワイファイ)を通じてデータを取得し、牛の活動状況から発情のサインを逃さず、受胎率を高めている。

さらに搾乳場ではイスラエル企業のハイテク搾乳機を使う。搾った生乳の脂肪分などの配合物を検出する機能があり、すべてデータ化されてクラウドサーバーに送信される。データはイスラエルの専門家が遠隔で把握し、ホーチミン市の研究員たちと策を講じてきた。

ウェルナー氏は「酪農はすしのようだ」と表現する。「すしが新鮮な魚、品質の良いコメ、しょうゆ、職人の組み合わせが重要なのと同じように、酪農もあらゆるコンビネーションがかみ合って乳牛の生産量が上がる」と解説する。

開始当初はイスラエルの専門家が常駐していたが、技術移転が進み今はホーチミン市の研究員が中心。ただ毎年イスラエルから専門家が訪れている。昨年は栄養、熱暑対策(ヒートストレス)など各種の専門家20〜30人が指導に当たった。また酪農を学ぶ大学生や地域の酪農家を対象としたワークショップやカンファレンスを開くほか、イスラエルへの短期の酪農研修へ招待するなど継続的な取り組みをしている。

ハイテク農場で使用しているソフトウエアや機械は全てイスラエルから輸入した。センサーや搾乳機器などは、酪農に特化したシステムを開発してきたアフィミルクのソフトウエアになる。同社のソフトは欧州や南米だけでなく、ベトナムでは乳業大手THミルクにも用いられている。また飼料を混ぜるミキサーは、中国や韓国などでも使われている「RMH」ブランドを使用している。

■乳製品市場は拡大傾向

プロジェクトはホーチミン市の提案で、2007年に覚書が調印された。最初の5年間の投資額は410億ドン(現在のレートで180万米ドル=約2億円)で、うちイスラエル側が4割投資した。酪農場は13年に正式に始まった。

ウェルナー氏によると、ベトナムは歴史的に乳製品を消費してこなかったが、ホーチミン市ではフランス統治や米国の影響を受けて、酪農を営む零細農家が増えた。ただ産業としては比較的新しい上、厳しい気候から産業の成熟度が低く、所得の向上に伴い高まる乳製品への需要に対して輸入に依存してきた。それゆえ、ホーチミン市の酪農は改革が必要だった。

ウェルナー氏は、「気候の関係上ホーチミン市で酪農を営むのは簡単ではない。こうした環境では、(解決するための)資金も重要だが、対応できる人材が最も重要だ」と話す。5年間のプロジェクトは今年度に終わるが、継続して支援をしていきたいと意欲を示す。

一方で北部や中部高原では大規模な酪農場が増えている。その結果、国内の生乳生産量は過去10年以内に倍増し、輸入額は減少してきた(グラフ参照)。イスラエルの技術や専門家を招いて急成長しているTHミルクはその代表格だ。

seisan.jpg

posted by HA-NAM at 06:46| ★経済・株価・金利★ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。