
日本上陸した「お金のワッツアップ」原点はソマリランドにあった (上)【フィンテック最前線】
今年5月末、山形県警は、ベトナムに不正送金する「地下銀行」を営んでいたとして銀行法違反(無免許営業)容疑でベトナム人会社役員(36)を逮捕した。山形県内のベトナム人3人から1万1000円の手数料を取って計72万円を同国に送金したというのが逮捕容疑だった。
日本とベトナムの貿易を手がける役員はベトナム側のプール資金を利用して昨年2月から今年4月にかけ、フェイスブックで募集した全国百数十人のベトナム人から預かった計10億円をベトナムの送り先に届け、手数料として計1500万円の収益を上げていた。
日本で働くベトナム人研修生・技能実習生が急増したことが事件の背景にある。研修生・技能実習生とは事実上の出稼ぎ移民だ。歴史的に反中国のベトナムは日本と経済連携協定を結ぶなど、経済的な結びつきが次第に強まっている。
厚生労働省によると、昨年10月末現在、日本で働く外国人は前年同期に比べ17万5873人(19.4%)も増えて4年連続で過去最高を更新、108万3769人に達した。100万人を突破するのは初めてのことだ。
国別では、中国が最も多く34万4658人、次いでベトナムの17万2018人。前年同期比で56.4%も増えたベトナムの増加率は断トツだ。
警察当局から見れば、「地下銀行」は、不法滞在・不法就労、組織犯罪、マネーロンダリング(資金洗浄)の温床になる、だから摘発しなければならないという理屈になる。
最近では研修生や技能実習生の多くが正規の銀行口座を持つようになった。しかし働いたお金をできるだけ早く祖国の家族に送りたい出稼ぎ移民からすれば、銀行や登録業者の海外送金サービスは使い勝手が非常に悪い。
「窓口できちんと説明できるほど日本語が堪能ではない」「仕事のない夜間や土・日曜日に銀行の窓口が閉まっている」「送金日数がかかる」「銀行や登録業者を使って少額送金する場合、手数料が割高になる」
現在の金融システムは悲しいかな、出稼ぎ移民のようなマイノリティーや低賃金・貧困層向けには設計されていない。
だから、出稼ぎ移民が祖国に帰国する友人や知人にお金を預けて家族に届けてもらったり、逮捕された会社役員が営んでいたような「地下銀行」にフェイスブックを通じて送金を依頼したりする例が後を絶たない。
出稼ぎ移民は汗水たらして稼いだお金を持ち逃げされるリスクにもさらされている。
弱い立場に置かれた出稼ぎ移民のファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)を確保するため、オンライン国際送金サービスに特化して、急拡大するフィンテック企業「ワールドレミット」(本社・ロンドン)が今年3月、日本に上陸した。
アフリカはソマリランド出身という創業者のイスマイル・アハメド(57)はフィンテック界の期待の星だ。
包み込むような優しい表情をたたえるイスマイルに、どうして国際送金に興味を持ったのか、尋ねてみた。ソマリランドの首都ハルゲイサで育ったイスマイルは故郷を思い出すように語り始めた。
「20世紀、湾岸諸国のサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、カタール、クウェートで石油が見つかり開発が進むと、ソマリランドのハルゲイサや他の都市から紅海を渡って1万人ぐらいが出稼ぎに行きました」
「ホテルの従業員や建設作業員など簡単に仕事が見つかり、お金が稼げたのです。ゴールドラッシュと似ています。私の兄や親戚の多くも出稼ぎに行きました。彼らの仕送りによってハルゲイサでは建築ブームが起き、都市は急激に変わったのです」
彼らは一体どのようにしてソマリランドに送金していたのだろう。イスマイルは「現金が私たちの手元に届くまで3カ月から数カ月もかかったのです」と言った。(木村正人氏)
posted by HA-NAM at 22:09|
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